前回の「メモリの選び方 ~初級編~」に続いて、中級編です。
今回はより詳細なメモリ選びのために、メモリタイミングと、互換性についてを紹介します。
最も簡単にメモリ選びをするならまず初級編をご覧ください。
では前回説明を省略したメモリタイミングから説明します。
「しーえる」ってやつ?
そうです。メモリのスペックで「CL」となっているところです。
たとえば、G.Skill F4-3200C16D-32GVKであれば「CL16-18-18-38-2N」、G.Skill F5-6000J3636F16GX2-TZ5RKであれば「CL36-36-36-96」がメモリタイミングの数値です。
メモリタイミングの違いでパフォーマンスは変わるのか?
メモリタイミングとは、メモリがデータにアクセスする速度やタイミングを制御するパラメータのことです。大きくは4つ(+α)のパラメータがあり、メモリのスペックにはこの4つ(+α)の数値が表示されています。
- CAS レイテンシ (CL): CAS(Column Address Strobe)レイテンシは、プロセッサがメモリにデータを要求してからデータを返すまでにかかる時間を表します。
- RAS to CAS ディレイ (tRCD): RAS to CASディレイは、RAS(Row Address Strobe)からCASまでにかかる時間を表します。
- RAS プリチャージタイム (tRP): RASプリチャージタイムは、RASの解放から新しいRASのアクティブなプリチャージまでの準備にかかる時間を表します。
- RAS サイクルタイム (tRAS): RASサイクルタイムは、次のメモリ・アクセスの要求が開始できるまでメモリが待機しなければならない時間を表します。
- コマンドレート (CR): メモリコントローラがメモリにコマンドを送る際に必要な時間を表します(メモリの製品では明示されないこともある)。
以上のような意味なのですが、ここでは基本的に低い値ほど、メモリのアクセス速度が速いことを覚えておいてください。
あ、「しーえる」あった!
一番最初の数値「CL」は最も重要な値です。メモリを選ぶときにはこの数値だけを気にすればOKです。
タイミングの数値は、DDR3、DDR4、DDR5の各メモリの規格、またそれぞれのメモリクロックで異なります。
メモリ規格 | クロック | タイミング |
DDR3 | 1333Mhz~2400MHz | CL8、CL9、CL10、CL11、etc. |
DDR4 | 2666Mhz~5333MHz | CL14、CL15、CL16、CL17、CL18、CL19、CL20、CL22、etc. |
DDR5 | 4800Mhz~8400MHz | CL30、CL32、CL34、CL36、CL40、etc. |
おおまかな、メモリ規格、クロック、タイミングの関係は上のとおりです。
メモリの世代があがればメモリクロックは上がりますが、タイミングは大きくなります。同じ規格内でもクロックがアップするとタイミングは大きくなります。
「しーえる」は小さいほうがいいの?
メモリクロックが同じであれあば、「CL」は小さいほうが速いのですが、どの程度の意味があるかは用途で異なります。
「CL」に違いは、はっきり言ってしまうと体感的にはわかりません。ベンチマークテストで詳しくデータを取れば違いがわかりますが、一般的に利用するプログラムではほぼ変わりません。またベンチマークの種類によって効果に差があります。
PCの用途が計算を主体とするプログラムで、少しでもパフォーマンスを上げたい場合は、CLの小さいモデルを選ぶ意味がでてきます。あとはとにかく少しでも速いスペックの方がいいという方や自分でメモリを細かく設定したいという方はCLを気にして選ぶのもありです。
CLが小さいほうが価格が高いのが通常なので、一般的なPCの用途であれば、価格を優先して選んでも問題ないでしょう。
一番気になる「このマザーで動作する?」
次は互換性のチェックについて説明します。
「互換性」って?
互換性とは、選んだメモリが使用しているPC(CPU、マザーボード)で安定動作するか? ということです。
DDR4でいえば、DDR4-2666~3200、DDR5でいえば、DDR5-4800~5600といったシステムでの標準メモリクロックの場合は問題ありませんが、そこれを超えたオーバークロックメモリの場合は、マザーボードやCPUによっては安定動作しないことがあります。
動かないの?
はい。マザーボードにはメモリクロックの動作限界があります。AマザーボードはDDR5-6800まで、BマザーボードはDDR5-7600までという感じで、もしAマザーボードにDDR5-7600のメモリを使った場合は起動しない可能性が高いです。
DDR5-7600のメモリは動作するマザーボードが限られる
上の例にあげたように、高クロックのメモリが動作しないマザーボードがあります。動作しないメモリを選ばないように互換性の確認が必要です。
実際に互換性を調べてみましょう。G.Skillのページには製品ごとにQVLが掲載されています。
「きゅーぶいえる」?
QVLとは「Qualified Vendor List」のことで、メーカーがテストを行い動作することが確認されたマザーボードのリストです。ここに掲載されているマザーボードであればほぼ問題なく動作します。G.Skillが掲載しているQVLは、当店の経験上かなり信憑性が高いものです。
ではDDR5-6000のメモリ、G.Skill F5-6000J3040F16GX2-TZ5RKのQVLを見てみましょう。商品画像の下の「QVL」タブをクリックしてください。
するとマザーボードメーカーが表示されます。メーカーをクリックすると、チップセットが表示されます。
チップセットをクリックすると、マザーボード名が表示されます。現在ASUSの「Intel Z790 DDR5(14th Gen Intel Core CPUs)」には22機種のマザーボード、ROGシリーズ、TUFシリーズ、PRIMEシリーズなど幅広く多くの機種が掲載されています。Z790では13世代のCoreプロセッサも利用可能なので、CPU別にQVLがあります。理由はCPU内部にメモリコントローラーがあるため、CPUの世代によってメモリクロックの耐性が異なるからです。
ではもう一つDDR5-7600のメモリ、G.Skill F5-7600J3646G16GX2-TZ5RKのQVLを見てみましょう。同様にQVLタブのASUSの「Intel Z790 DDR5(14th Gen Intel Core K-SKU CPUs)」を見てみます。
すると掲載されているのは5機種のみです。さきほどのG.Skill F5-6000J3040F16GX2-TZ5RKでは22機種掲載されていたのに、かなり数が減っています。つまり掲載されていない「PRIME Z790-A WIFI」など17機種では動作確認が取れていないということです。
あれ? 少ないのね。
メモリクロックが高くなると、動作環境が限定されてきます。CPUの表記も「14th Gen Intel Core K-SKU CPUs」となっていることに注目してください。
「K」付きだけってこと?
そうです。CPUも「K」付きのみに限定されています。
メモリクロックが高いほど、CPU、マザーボード共に動作環境は限定されてきます。ハイクロックのメモリを選ぶ際は、ぜひQVLを確認してください。
QVLの意味は?
QVLが100%完璧かというと、そうではありません。
QVLは「メーカーが動作テストを行ったリスト」なので、まだテストが行われていないものや、テストするつもりがないものは掲載されていないことになります。つまり掲載されていないマザーボードでも動作する可能性があります。またマザーボードのBIOSがアップしたことで、動作するようになっている機種が掲載されていないこともあります。
ただし、QVLに載っていない場合は、
動作しない可能性が高い
メーカーは保証してくれない
というようにリスクは大きいので、QVLに載ってないのにあえてそのメモリを買うことはおすすめしません。自分でリスクが負える(動かす対処を知っている)方であれば、この限りではありません。
一方、QVLに載っていれば
安定動作する可能性が非常に高い
仮に動作しない場合でもサポートがある(当店の場合)
となり、安心して購入できます。
当店ではG.SkillのQVLの掲載のマザーボードで動作しなかった場合は、メーカーに連絡して原因を調査を行うこともあります。またメーカーを通じてマザーボードメーカーにBIOSの修正を行ってもらうこともあります。
なるほど。QVLチェックしなくちゃ。
高クロックのメモリはDDR4やDDR5という規格が合っているだけでは必ずしも動作するとは限りません。QVLをチェックしてからの購入をおすすめします。これでメモリの初期トラブルは大幅に軽減されます。
この中級編で間違いないメモリ選びができるはずです。
実はマザーボードメーカーもメモリQVLを作っています。G.SkillのQVLとはまたちょっと異なります。このことは上級編で解説予定です。
それでもどのメモリを選んだらいいかわからないという方は当店の「メモリコンシェルジュ」をご利用ください。スタッフが最適なメモリを選んでお知らせします。